雨楽な家BLOGBLOG
まず手を洗う
紅葉の見ごろは例年11月下旬ですが、今年は秋の気温が高かったので、12月まで紅葉が楽しめそう。画像は日本庭園の「つくばい」です。竹の筧(かけひ)から手水鉢(ちょうずばち)に落ちる水の音が聞こえそう。紅葉も水に落ちて風流ですね。
兼好法師の徒然草に次の一節があります。
神無月の頃、(中略)遙なる苔の細道を踏みわけて、心細く住みなしたる庵あり。木の葉にうづもるる筧(かけひ)のしづくならでは、つゆおとなふ物なし。
中学の国語の教科書にありましたね。
十月の頃、(中略)遙かに続く苔むした細道を踏みわけて、心細く住みついている一軒の庵がある。木の葉にうもれた筧のしずくの音以外には、まったく音をたてるものもない。
つくばいとは茶庭にあって、茶室に入る前に、手を清めるために置かれた背の低い手水鉢のこと。筧とは水源から手水鉢に水を導く樋のこと。
茶の湯では、まず手を洗います。というわけで、今回のテーマは「まず手を洗う」。
〝はたらけど はたらけど なほ わがくらし 楽にならざり ぢつと手を見る〟
明治時代の歌人、石川啄木の名作です。じっと手を見て深いため息をついた啄木ですが、一方で手にまつわる希望の歌も遺しました。
〝よごれたる手を洗ひし時の かすかなる満足が 今日の満足なりき〟
一日の仕事を終えて、手を洗うとき、手についた汚れに小さな満足を覚えた啄木。「あぁ、きょうも一日、よく働いたなぁ」。手の汚れが仕事の誇りであり、手を洗うことで心を整えたのでしょうか。
長くて辛いコロナ禍から、私たちは新しい生活様式を獲得しました。それが住宅のいろいろな場面を豊かにしています。そのひとつが、玄関土間の入り口に設けられた手洗いコーナーです。
学校から、仕事から、外出から、家に帰ったら玄関土間で、まず手を洗うという習慣。室内の戸に触れる前に手を洗うことができて衛生的です。入ってすぐの所にあるので、家族だけでなく遊びに来た友だちなどにも、無理なく手洗いへと誘導できます。
画像は「雨楽な家」の玄関土間。手洗いコーナーは茶の湯に見られる手水鉢と筧のようですね。三角形のカウンターは杉の一枚板。腰壁にも杉材を張って、風情があります。
玄関の入り口は格子入りの片引戸。外光が縦長に入り、土間の奥まで明るくしてくれます。壁は漆喰、床は豆砂利の洗い出し。和モダンで衛生的な玄関土間ですね。
手を洗うことは病気を予防する第一歩。新型コロナ、インフルエンザなど、多くの病原体はのどや消化器官の粘膜、目や鼻の粘膜から感染します。 これらの粘膜に病原体の付いた手でさわらないために、手を洗うことが大切です。
手を洗うことは病原体だけでなく、心のストレスも洗い流してくれるとか。米ミシガン大学の心理学者が、次の興味深い研究結果を発表しています。手を洗う行為には、過去の決断や行動の影響を減らす効果があるそうです。 自分の決断に自信が持てないときは、手を洗って迷いも洗い流すのがよさそう。
「水に流す」という言葉もありますが、これは過去にあったことをすべてなかったことにする、とか、過ぎ去ったことをとがめないことにする、という意味。「手を洗う」とちょっと似ていますね。
画像は「雨楽な家」の玄関土間の一角です。壁は杉板の横張り。床は30センチ角のタイル。モザイクタイルの手洗いボールとアンティークな水栓がオシャレです。
「まず手を洗う」を心がけて、清潔でストレスフリーな日々を送りたいものですね。