雨楽な家BLOGBLOG
杉と日本酒の深い関係
日本酒や焼酎、泡盛などを造る「伝統的酒造り」の技術が、12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。伝統的酒造りが地域社会にとって強い文化的意味を持っている、と評価されました。
日本の伝統的酒造りは、カビの一種のこうじ菌を米や麦などの穀物に繁殖させた「こうじ」を使って発酵を促し、風味を豊かにするのが特徴。杜氏や蔵人と呼ばれる職人が手作業を洗練させ、各地の気候風土に応じた多様な酒を生み出してきました。海外での和食人気から、2023年の日本酒の輸出額は約411億円で、この10年で4倍近くに伸びたそうです。
新年の祝賀式や記念式典など新たな門出を祝うとき、かけ声とともに酒樽を木槌で威勢よくあける「鏡開き」がよく行なわれますが、酒樽は杉材で造られます。杉のもつ独特の香気が酒の味を良くするとか。杉の枡で呑めばまた格別でしょう。
神社では菰(こも)に巻かれた酒樽が奉納されているのを見かけます。これを「菰樽(こもだる)」といいますが、この酒樽の材料ももちろん杉材。菰とは、わらで編んだ織物のことです。
江戸時代に上方で造られた酒が酒樽に詰められ、菰に巻かれて「樽廻船(たるかいせん)」で消費地の江戸へ大量に輸送されましたが、この樽廻船自体も杉材で造られました。というわけで、今回のテーマは「杉と日本酒の深い関係」。
「杉の葉のぴんとそよぐや新酒樽」
この句は江戸時代の俳人、小林一茶の作品です。新酒は秋の季語。一茶は酒をこよなく愛したとか。秋風が吹いて新しい杉玉がわずかに揺れ、杉の葉がそよそよと音をたてると、一茶の心も浮き立ったことでしょう。
杉玉とはたくさんの杉の葉をたばねて丸い形に切りそろえた縁起物。造り酒屋の軒先の杉玉が青々として新しくなると、「今年も新酒ができましたよ」という印です。季節が進み、杉玉が赤茶色に色づいてゆく姿は、酒が徐々に熟成してゆくのを象徴するかのようです。
画像は昔の日本酒の仕込みに用いられた杉の「大桶」で、神戸の酒心館に展示されています。32石(こく)=約6キロリットル入る大きな桶で、毎日一合(180ミリリットル)ずつ呑むと87年かかるとか。酒造りが終わると大桶を洗い、このように蔵の外で干したそうです。
酒ばかりでなく、醤油、味噌、漬け物などの樽にも、昔から杉が使われてきました。樽や桶に使われたということは、杉が通直で緻密であり、水に強く耐久性にも優れている何よりの証拠。杉の名は、まっすぐに天に伸びるという「直ぐ木」という言葉からきているそう。樽や桶ばかりか、船も建物も、生活道具の大半に杉が活かされていました。
こちらは築後67年の古民家をリノベーション。元の応接間と納戸をひと続きにした広いリビングです。
壁にも床にも杉板をふんだんに張りました。中央の座卓は杉の一枚板。
森の息吹が感じられるような生気あふれる空間ですね。
「雨楽な家」は床板に桧材を用いることが多いですが、杉材も魅力的です。
桧と杉では色あいや質感が大きく異なり、桧はフォーマル、杉はカジュアルな雰囲気を持っています。
桧は上品ですが、杉は質実剛健。素朴で温もりがあり、断熱性が高く、肌ざわりの良い材料です。
杉の辺材は淡い黄色。心材は美しい赤褐色で、心材と辺材の差が明瞭です。
両者が縞模様に現れた材を「源平」と呼び、視覚的な味わいを深めます。
杉の薫るマイリビングで好きな日本酒を味わいながら
冬の夜長をあったかく、ほろ酔い気分ですごすのもいいですね。