雨楽な家BLOGBLOG
月を獲る
秋風が恋しい季節になりました。百人一首にこんな歌があります。
〝秋風に たなびく雲の絶え間より もれ出づる月のかげのさやけさ〟
平安時代の藤原顕輔の作で、「秋風に吹かれて大空にたなびいている雲の切れ間から、漏れて
姿を現した月の光のなんという清らかさだろう」という、月を愛でる歌ですね。
〝名月を 取ってくれろと 泣く子かな〟 こちらは江戸時代の俳人、小林一茶の句。「手を伸ばせば届きそうな大きな月。空に輝くあの月を取ってくれと、泣く子どもがいるよ」という、ほほえましい一句ですね。名月は秋の季語。お月さまを取ってほしいという、子どもの新鮮な気持ちを伝えています。古くから月は憧れの的でした。というわけで、今回のテーマは「月を獲る」。
20世紀の彫刻家、イサム・ノグチは和紙と竹で作る光の彫刻〝AKARI〟を私たちに遺しました。岐阜提灯(ちょうちん)との出会いから生まれた〝AKARI〟は、手漉き和紙を通した柔らかい光が心をいやし、空間を引き立て、日本だけでなく世界中の人々に愛されています。
〝AKARI〟のモチーフは満月です。イサムがアメリカ人の母に伴われ2歳で来日したとき、日本人の父が障子に映るお月さまの好きなイサムのために、月の出ない夜は丸い竹かごに白い和紙を貼った行燈(あんどん)を障子に映したという、その思い出が元になっているといわれます。お月さまから普遍的なアートが生まれました。
闇夜を照らす満月に昔から人々は思いをはせました。「中秋の名月」には月見団子やススキをお供えして、秋の実りに感謝しました。中秋の名月とは旧暦8月15日に出る月のこと。十五夜ともいいますね。今年は9月17日が中秋の名月です。
月は住まいにも表現されています。こちらは「雨楽な家」のお洒落な和室。満月を間近で観賞しているかのような個性際立つ空間ですね。丸窓は茶室など日本の伝統的な建築でも見られますが、この窓は内に引き分け障子が入り、円形の柔らかな光が室内を照らします。
墨色の畳に月ですから、いにしえの闇夜を照らす満月のように情緒豊か。竹から生まれたかぐや姫は最後には月へ帰りますが、この空間はかぐや姫が月を夢見て暮らした部屋みたいに見えませんか。
「中秋の名月」はアメリカではハーベスト・ムーン(収穫の月)と呼ばれます。
これはアメリカ先住民の風習に由来し、日没と入れ替わりに満月が上がるため
夜までトウモロコシなどの収穫作業ができるほど明るい、という意味からの呼び名だとか。
秋の実りに感謝する点では日本の「中秋の名月」と同じですね。