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2025.11.26

クスノキに願いをこめて

人生100年時代といわれますが、上には上があり、クスノキは1000年以上も生きていると聞いたので、不老長寿にあやかって、クスノキの巨木に会いに神社めぐりをしてきました。

画像は大阪府門真市にある三島(みつしま)神社のクスノキです。古くからクスノキは、神が降り立つ依代(よりしろ)として神聖視され、寿命が長いこともあり生命力の象徴として健康長寿を願う人々の信仰の対象となってきました。

確かにクスノキはいつも青々と葉を茂らせていて、枯れることのない超越した生命力を感じますね。というわけで、今回のテーマは、「クスノキに願いをこめて」。

クスノキ

 

クスノキ

 

クスノキ

この三島神社のクスノキは、その名を薫蓋樟(くんがいしょう)といいます。幹の周囲は13m、高さは30m、枝ぶりは東西40mで、樹齢は1000年超。生まれは平安時代?! 大阪では最大のクスノキで、1938年に国の天然記念物に指定されています。

神社の拝殿の前すれすれの狭いところにどっしりと立ち、根元にはごつごつと出っ張ったコブが多く見られ、迫力満点です。見上げると、薫り高い枝葉が神社をすっぽりと、おおいかぶさるように見えることから、薫蓋樟と名づけられたようです。

クスノキの根元に立つ歌碑には、次の歌が刻まれていました。
「村雨の 雨やどりせし唐土(もろこし)の 松におとらぬ樟(くす)ぞ此の樟」
村雨が降ってきた時に雨宿りをした中国の立派な松にも劣らないくらい、このクスノキは素晴らしい、という意味で、千種有文という幕末の公家が詠んだ歌だとか。

クスノキは本州中南部から四国、九州、沖縄などに分布する常緑広葉樹。木材から「樟脳」の成分が取れ、天然樟脳として珍重されます。樟脳は、ハッカに似た香りをもつ樟の原木から精油を抽出してつくられます。

樟脳は古くから天然の防虫剤や鎮痛剤として用いられ、その防虫効果から、木製箪笥などの家具類に利用されるほか、クスノキは、社寺建築、仏像、楽器などの素材として活用されています。

 

こちらは、大阪府寝屋川市の萱島(かやしま)神社のクスノキ。京阪電車の萱島駅の2階ホームの天井を突き抜けて空へと伸びる、樹高20m、幹周り7m、樹齢約700年のご神木です。

上の画像の左下に見える鳥居が萱島神社の入口で、奥に小さな拝殿があり、その奥にクスノキの根元があります。1972年の高架・複々線化工事の際に、住民からの強い要望を受け、クスノキを伐採せずに、駅舎をくりぬいて保存する形で工事が行われました。

2階ホームの真ん中にクスノキが大きく枝葉を伸ばしている姿は壮観で、乗降客を元気づけているかのよう。駅舎と大樹の組み合わせが評価され、大阪府都市景観建築賞奨励賞を受賞しました。

さて、樟脳の話に戻りますが、江戸時代の樟脳は、防虫・防腐・防カビ剤として広く利用され、長崎を通じてオランダへの輸出も行われた重要な輸出品でした。特に薩摩藩や土佐藩は樟脳貿易で得た莫大な利益を軍艦や武器の購入にあて、幕末の倒幕運動の原動力の一つになったとされています。

1869年には樟脳を原料としたセルロイドが発明され、世界的に需要が増えます。明治時代を通じても、樟脳は生糸や茶などと並ぶ日本の主要な輸出品目の一つであり続け、国の財政を潤す重要な産業でした。現在も天然樟脳は少量ながら生産されています。

クスノキは神が降り立つ依代として、人々の心のよりどころだっただけでなく、日本の経済発展や近代化にも大きく貢献したのですね。

クスノキ

 

クスノキ

 

大阪市中央区の交通量が多い道路の真ん中に大きなクスノキが鎮座しています。根元には鳥居と祠(ほこら)も。地元の人から「クスノキさん」として親しまれているご神木、「楠木大神(くすのきだいじん)」です。樹齢500~600年。もとは寺の境内にありましたが、戦時中の道路拡張で現在の状態になったとか。

大阪市建設局の1984年の調査では、市内の23カ所で道路上にご神木があったそうで、大半は現存しているとか。戦後の開発で街が姿を変えるなか、なぜご神木が伐採されず残ったのかというと、地元の人々の強い願望、ご神木を守り抜く声が大きかったようです。

 

都会の真ん中で元気なクスノキの大樹に出会うと、ほっと安らぎを感じます。「クスノキの番人」は東野圭吾氏の人気小説で、近日中にアニメ映画化されますが、クスノキにはなぜか人の心を惹き付ける魅力がありますね。

クスノキ

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