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木でつむぐ大阪・関西万博

1970年の大阪万博のシンボルとして芸術家の岡本太郎氏が手がけ、世界中に強烈な印象を与えた「太陽の塔」が、半世紀を経て重要文化財に指定されることになりました。「太陽の塔」の構造は鉄骨・鉄筋コンクリート造で、高さ約70メートル。今もなお、万博記念公園の樹木に囲まれ、私たちに歓びを与えてくれます。

さて本題は大阪湾の夢洲で開催中の大阪・関西万博ですが、開幕前の予想よりはるかに面白い。木でデザインされたユニークな建物が多いので、外観デザインだけでもすべて見たい。甲子園球場40個分の広さなので一回ではまわれず、5月に再度行ってきました。というわけで、今回のテーマは「木でつむぐ大阪・関西万博」。

大阪万博

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万博パビリオンの外観をほぼすべて見てまわり、心惹かれた外観はウズベキスタン館です。屋上に林立する高さ8mの〝杉〟の丸太の列柱が美しい。まるで木でできたパルテノン神殿みたい。すぐ横に「大屋根リング」があるので、リングの屋上からパビリオン全体を俯瞰することもできて絶景。

パビリオンの建築デザインを担当したのは、ドイツのアトリエ・ブリュックナー。屋上の列柱はすべて、地元大阪周辺(和歌山、徳島、島根、熊本、宮崎など)の国産杉が使われ、見学者がスマホで木の原産地を追跡可能。日本の職人の技術で丁寧に仕上げられました。

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ウズベキスタンは、中央アジアの内陸国で、隣国はカザフスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンなど。かつてシルクロードの東西貿易を支える中継都市として栄え、モスクなどの建築物が数多く残り、世界遺産も多いとか。

パビリオンは三角形の敷地に建てられていますが、この形は中央アジアの伝統的なお守り「トゥマール」を想起させる縁起の良い形で、守護の象徴とされているそうです。万博パビリオンをきっかけに、ウズベキスタンのことをもっと知りたくなりました。

多様な書体の漢字が並ぶ外観に思わず足を止めて国旗を仰ぎ見れば、なるほど中国パビリオン。古代中国の伝統的な書道の巻物「竹簡」を広げた形をモチーフにした外壁に五千年の文明がにじみ出ています。篆書(てんしょ)、隷書、行書、楷書、金文の五つの書体で、論語や漢詩が刻まれているとか。竹簡とは、紙が発明される以前に文字を記した竹の札のこと。

パビリオンのテーマは、「自然と共に生きるコミュニティの構築・・・グリーン発展の未来社会」。
竹簡だけに〝竹〟を内外装にふんだんに使い、自然との調和をアピール。日本でも漢字を描いたグッズは外国人観光客に人気ですが、「そういえば漢字は中国が本家だね」と改めて気づかされました。

大阪万博

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これはなに? スロープ状の休憩所? すぐ横の「静けさの森」を眺める観覧席? それも間違いではないけれど、よく見ると下が「トイレ」でした。雨水が屋上の砂利に吸い取られ、建物を冷やし、再生水はトイレの排水に利用される、水の循環を表現したトイレ。いのちを支える水の大切さを示しています。

木造平屋建て。最高高さは約10m。外装の仕上げ材に足場板を活用し、再利用しやすい工夫もしているとか。設計は隈翔平氏+エルサ・エスコベド氏。若手建築家を対象にしたプロポーザルで選ばれました。万博会場では他にもユニークなトイレや休憩所などの建築を数多く体感できて面白い!

こちらはマレーシアのパビリオン。外観に〝竹〟がふんだんに使われています。「調和の未来をつむぐ」というテーマを体現したもので、竹のファサードはマレーシアを象徴する伝統的織物「ソンケット」の優雅さを表現し、からみ合ったリボンの模様が特徴だそうです。

設計は日本を代表する建築家の隈研吾氏。鉄骨造3階建て。今にも動き出しそうにうねる竹の外観がマレーシアの活力と多様性を表現。外装には日本の竹が約5000本、内装にはマレーシアの竹が約500本使われているとか。アジアの大自然の息吹を感じますね。

大阪万博

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こちらは海外パビリオンではなく、万博のテーマ事業「いのちをつむぐ」のシグネチャーパビリオン〝EARTH MART〟で、小山薫堂氏がプロデュースを担当し、隈研吾氏が建築意匠を監修。〝茅〟を使用した大きな茅葺き屋根が面白い外観デザインです。

〝EARTH MART〟は、食を通していのちを考える空想のマーケット。複数の屋根の集積は市場のように食に集う人々の賑わいを表しているとか。茅は熊本、静岡、大阪、滋賀、岡山の5産地から集められ、産地により色や形状はさまざま。軒の深さが日陰を作ってくれます。

アレ? 母校の校舎がなぜここに? と思った来訪者も多いのでは。昭和世代には懐かしい木造校舎。もちろん海外パビリオンではなく、万博のテーマ事業「いのちのあかし」のシグネチャーパビリオンです。河瀬直美氏がプロデュースを担当し、周防貴之氏が建築を担当。

奈良県吉野郡十津川村と京都府福知山市で廃校となった築約80~90年の木造校舎3棟を丁寧に解体し、再構成してパビリオンに転用。古い木造校舎は大阪万博で新しい役目を得て生まれ変わり、対話の場として活用されています。

校舎に寄り添って成長したイチョウも、いのちをつなぎ、万博会場に植え替えられたとか。来訪者の中には、古い校舎に染み込んだ記憶を感じながら、遠い故郷の山や川に思いをはせる人も多いことでしょう。すぐそばには「静けさの森」の木々が新緑に輝いています。

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